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2002年(平成14年)鳥獣保護法改正に対するNGO意見

鳥獣保護法改正・参議院における参考人質疑

法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2002年6月14日、衆議院)

○野上参考人 野上と申します。
 私は、人間中心の環境問題の幅を広げて、地球の生き物たちの側から見た環境問題ということに取り組んでおります地球生物会議の代表をしております。今回、自分たちの生死にかかわる問題であっても発言権のない日本の数百万、数千万の野生動物の運命にかかわる鳥獣保護法の改正に際しまして、意見を述べる機会を与えられたことに感謝申し上げます。

 鳥獣保護法は、野生鳥獣の捕獲を規制することによって保護を図ることを主目的にしておりますが、現実には、平成十一年度の統計によると、狩猟と有害鳥獣駆除を合わせて約三百十万匹の鳥獣が捕殺されています。これほど多くの野生動物が人間の都合で生命を奪われているわけですが、現行法ではその保護が適切になされておりません。残念ながら、今回の鳥獣保護法改正は私たちが望む包括的な野生生物保護法制ではないことから、本改正案に反対の立場で意見を述べさせていただきます。

 まず、年間百万匹もが生命を奪われている現在の有害鳥獣駆除のあり方には大きな問題があると考えています。
 私は、ことしの四月に京都府に有害駆除の許可状況について情報開示請求をして、驚いたことがあります。
 猿の駆除の許可期間を見ると、毎年、年度初めの四月一日に許可が出されます。許可期間は約一カ月で、有効期限が来るとすぐに次の一カ月の許可が出ます。そうやって、年度末の三月二十六日まで許可の延長を行っています。一年じゅう有害駆除の許可が出ているわけです。被害があるから駆除をしているというわけではないようです。驚くべきことに、京都府では平成十一年度の猿の駆除の許可総数は千四百六十八頭にも及び、これは京都府内の猿の全生息数を上回っています。

 クマについて言うと、例えば京都府の美山町では、クマの駆除の許可を猟期と積雪期を除く全期間、毎月五頭の駆除の許可を出しています。実際、平成十二年度に五頭、十三年度に七頭のクマを駆除しているので、もう許可はゼロになってもいいはずですが、相変わらず年を通じて毎月五頭の捕獲許可が出され続けています。これは要するに、被害があろうがなかろうが、駆除しようがしまいが、年間一定数の捕獲枠が決められているということです。

 この映像のクマは、福井県名田庄村で、有害駆除目的で、おりで捕獲されました。杉の皮はぎをするという理由ですが、胃の内容物を調べたところ杉の皮は発見されず、歯型も異なっており、ぬれぎぬだったということが判明したそうです。しかし、この地域では、猟期と積雪期を除く一年じゅう、中にハチみつなどを入れてクマを誘い込むこのようなおりが設置されています。

 京都の美山町、福井県の名田庄村、滋賀県の朽木村一帯は北近畿のクマの地域個体群であり、絶滅が心配されています。しかし、関係三県の連絡協議会も設置されておらず、このような駆除一辺倒のやり方が続いています。野生鳥獣の生息環境は、人工林化、秋の実りの多い少ない、気候の影響などで毎年変化し、それに対応して被害の態様も変わっているはずですが、現実には、生息環境の調査もなく、年中行事のように有害駆除で毎年捕獲枠をこなすという手法が続いています。
 野生鳥獣をいたずらに殺傷するばかりで、しかも何ら効果は上がらず、ただでさえ乏しい地方自治体の財源を浪費するという現状を変えるためには、有害鳥獣駆除のあり方を抜本的に変える制度の創設が必要かと思います。

 当会では、昨年、北海道から鹿児島まで、猿を駆除している全国五百市町村にアンケート調査を行いました。その調査結果によると、平成十一年度に全国で駆除された猿は一万頭を超え、その駆除費には二億円がかけられていました。駆除費の大半は、猟友会への手当と一頭当たりの報奨金です。
 全国平均で猿一頭当たり二万円程度の報奨金がかけられています。それを目当てで捕獲業者があらわれ、実験動物用に密売して二重の利益を得ていた事実は、十一日の当委員会で御指摘のあったとおりです。ここでもやはり、被害の実態の客観的評価に基づく適切な被害対策がとられていないがために、ずさんな駆除が行われたり、密売業者の暗躍を許し、行政ぐるみで違法行為の温床となっていることが判明しました。

 また、動物を捕獲する手段ですが、クマについては、銃と、おりが一年じゅう許可されており、猿はこれに加えてわなも許可されています。有害駆除は、原則一年じゅう、場所を選ばず行うことが許されています。鳥獣保護区でも駆除は行われます。どこから銃弾が飛んでくるかわからないという状況は、人にとっても危険ですが、捕獲おりとわなが一年じゅう山野に設置されているという状況は、野生鳥獣を無差別殺傷するに等しいものです。
 また、本来イノシシをとるべきわなにクマがかかった場合には、間違って捕獲されたということで、混獲、錯誤捕獲とされ、罰則もないばかりか届け出の必要もなく、統計にも記載されません。

 くくりわなについてですが、この混獲がいかに多いかということをくくりわなの例で申し上げます。
 くくりわなは、細いワイヤが動物の足や胴体にかかり、逃げようとしてもがけばもがくほど、かかった部位を締めつけます。足にかかった場合はちぎれてしまうこともあります。くくりわなは、針金の手づくりのものから発信機つきの高性能のものまでありますが、いずれも動物を無差別捕獲するもので、地域の生態系に大きな悪影響を及ぼします。

 山梨県では、平成十一年度にクマを三十七頭有害駆除しています。そのほかに、イノシシ用のくくりわなに十五頭ものクマがかかったことが学会で発表されています。誤って捕獲されたのですから、わなから外して逃がしてやるべきですが、実際に逃がせたのは五頭で、八頭は殺処分されました。
 兵庫県では、平成十二年度に十五頭のクマが捕獲されていますが、そのうちイノシシ用のわなにかかったもの五頭、違法なくくりわなにかかり捕殺されたものが一頭、交通事故で三頭が死んでいるとのことです。
 山梨県、兵庫県ともクマは狩猟禁止になっていますが、全捕獲数の三〇%以上もが誤ってわなで捕獲されています。しかも、この数は統計に載りません。
 いずれも孤立した個体群で、このような状態が続けば遠からず絶滅してしまいます。くくりわな自体を禁止するとともに、クマがかかったら自力で脱出できるようなはこわなを早急に普及させるべきと思います。

 動物を無差別殺傷するわなには、ほかに、小動物を対象としたとらばさみがあります。昨年十二月には、荒川の河川敷に仕掛けられた四個の違法なわなに絶滅のおそれのあるオオタカがかかり、死亡しました。ことしの一月には、やはり絶滅危惧種のツシマヤマネコが三匹もとらばさみにかかって死んでいます。
 数の少ない希少種でさえこれほどわなにかかっているということは、その他の鳥獣は言うまでもありません。地域の新聞では、犬や猫がかかって、飼い主の怒りが報じられています。すべてのケースで、発見されたわなには標識がない、つまり違法捕獲となっています。
 このとらばさみは、金物店やホームセンターなどで一個千円前後でだれでもが自由に購入できます。店頭でわなの許可証の提示を求められることもほとんどありません。通信販売でも自由に購入できます。もともとは毛皮をとるために考案されたわなですが、乱獲によって毛皮動物が激減したことや、その残虐性などの理由で、ヨーロッパ諸国では十年以上も前にこのようなわなを全面禁止しました。

 地球生物会議で二〇〇〇年六月にとらばさみの禁止を求める署名を呼びかけたところ、二カ月足らずで全国から二万名の署名が集まりまして、当時の環境庁に提出いたしました。このような多くの国民の声を受け、ぜひ、とらばさみ、くくりわなが一刻も早く禁止されるように心から願っています。
 十一日の当委員会で、違法なわなを発見したときは鳥獣保護員に通報するというお答えがありました。警察にも通報すべきですが、鳥獣保護法で最も罪が重い行為は密猟と違法捕獲です。

 人けのない山野で行われる狩猟や駆除を監視するために鳥獣保護員制が置かれています。現在、全国の市町村に約一名の割合で、三千三百八十名程度の鳥獣保護員が置かれていますが、残念ながら、現在、この制度もほとんど形骸化しています。
 私どもの調べでは、三重県を除く全都道府県では、鳥獣保護員は狩猟者団体からの推薦で決められていることがわかりました。県によっては、鳥獣保護員の九九%がハンターです。また、ハンターの高齢化に伴い保護員も高齢化し、五十歳以上の人が八五%を占めています。
 鳥獣保護員は年五十回程度の出動が義務づけられていますが、一年間の手当は、全国平均で十七万円程度です。研修も年に一回あればいい方で、全体研修のない県も多く、保護員同士の情報交換も不足しています。研修参加費は自己負担という県もあります。研修の講師は行政担当者がほとんどで、現場研修は行われません。

 このような体制では、多様化している鳥獣保護業務に対応できるはずがありません。狩猟者に限定された推薦制を廃止し、広く保護活動に熱意と関心、知識を持つ人材を公募すべきだと思います。また、現場研修や情報交換などを充実させて、人材育成を図るべきと思います。
 各都道府県でもこれについての問題意識はあり、鳥獣保護員制度の充実を図りたいとしているところは三四%もありました。

 北海道の担当者からはこのような意見が寄せられています。発生の態様が多様化している野生動物と人とのあつれきへの対応、より高度な調査研究実施の必要性等から、知識、技能、身分のいずれにおいても、従来より高い専門性が求められている。今後、すぐれた担い手を体系的に育成していくことが行政に求められる。各都道府県があまねく対応するためには、国の法整備による制度創設が必要であると考えるとのことです。
 一方、三重県では、鳥獣保護員と自然環境保全指導員を兼任として一般公募にした結果、大変希望者が多く、年齢は若返りし、ハンターに偏ることなく多様な人材が参加して、活動に活気が出てきたと聞いています。

 形骸化した推薦制を廃止し、自然保護や野生動物保護に熱意を有する地域の人々から広く公募して、具体的な目に見える活動に参加できる制度として鳥獣保護員を再編成すべきと考えます。そのことによって、地域の人々が新しい視野で野生動物に関心を持ち、その価値を再発見できることになると思います。今、ボランティアでも、自然や野生動物にかかわる仕事をしたいという若い人々は大変多くなっています。そのような人々が現場体験や研修に参加できるような制度も別途必要と思います。

 有害駆除においても、長らくハンターに依存し過ぎたことの弊害が今あらわれているように思います。野生動物とのトラブルが生じている地域では、邪魔な生き物は頼んで殺してもらえばよいといった風潮となり、地域ぐるみで取り組むべき有効な被害対策をおくらせ、また、科学的な保護管理の手法の普及を阻んできたように思われます。野生動物は国民の共有財産であり、その保護のためには、都市部の人々も費用と人手を負担するのは当然と思います。野生動物を狩猟者と地元の人々だけの問題とするのではなく、関心を持つ私たち皆がそれぞれの場で広くかかわれるような仕組みをつくっていければと願っています。

 鳥獣保護法の原型は、百二十年も前にできた狩猟規制法ですが、現状では、変化する時代の諸問題に対処できず、各所で機能不全の状態に陥っていると思われます。二年後における本法の抜本的改正に向けて、広く各界から活発な議論が起こり、二十一世紀における野生生物保護の基本的法制度として整備されることを強く願って、参考人意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)


法改正に対する国会参考人意見:NGOの見解(2002年4月16日、参議院)