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2003年:種の保存法の見直しと保全策の推進についての要望

2003年7月10日


環境大臣 鈴木俊一 殿

野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク


  種の保存法の見直しと保全策の推進についての要望



拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 さて、既にご承知のとおり、現在開会中の第156回通常国会において、先頃、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(以下、「種の保存法」)の改正が審議され、その際に衆参両院にて附帯決議が可決されました。この国会審議を通じて、種の保存法が施行されて以来10年の間に、レッドデータブックに記載された絶滅のおそれのある動植物種が増加しており、同法が有効に働いていないこと、同法の政令レベルでの施行が不十分なこと、及び現在の法では不十分な点が明らかにされました。
 私たちはこれらの審議内容を踏まえ、附帯決議について早急に履行することを求め、特に以下について要望いたします。



1.国内希少野生動植物種の指定について

 国内の野生動植物に関する基礎データであるレッドデータブックに記載された種2239種のうち、種の保存法の国内希少野生動植物種に指定されている種は62種、わずか2.7パーセントに過ぎません。附帯決議に指摘されたように、中央環境審議会に特別分科会を設け、特に別紙に掲げる種について早急に検討することを求めます。

2.国際希少野生動植物種の指定について

 既に1987年、1992年の国会においても附帯決議にて指摘されているように、国際希少野生動植物種の指定については、ワシントン条約の附属書Iの種に限定することなく指定することが求められているに関わらず、日本政府は附属書Iに記載されている種についても留保しており、今回もなお同じ事項が指摘されています。このように長期間、この問題がなおざりにされてきたことを反省し、国際希少野生動植物種の指定について、特に別紙に掲げる種について早急に検討することを求めます。

3.「器官」および「加工品」への追加について

 「種の保存法」では国際希少野生動植物種の対象となる種の個体以外に、「器官」や「加工品」がその規制の対象となりますが、クマ類において器官および加工品として指定されているのは毛皮、皮革、毛皮製品、皮革製品のみで、クマノイは指定されていません。クマ類の部分で一番高価に取引されるのは、クマノイで、これを器官および加工品に追加し、規制の対象とすべきです。同法では、種を容易に識別できるものを器官および加工品として指定するとしています。しかし、ワシントン条約では、製品にクマノイと表示されていれば種を容易に識別できると判断し税関で規制しています。このように、クマ類に関しては、税関での規制と国内での規制には差があります。
 種の保存法の目的のひとつに、条約に基づく水際規制の確実な実施を担保することがありますが、クマ類においては水際規制の対象としてクマノイを器官及び加工品として追加する必要があります。

4.種の保存法の抜本的な見直しについて

 法施行から10年の間に、レッドデータブックに記載された絶滅のおそれのある動植物種が増加している事実を踏まえ、法が有効に働いていない原因を検討し、法の抜本的な改正を行うことを求めます。特に以下のような点について検討を求めます。

・種の保存法の目的を、希少種に指定された種を、その指定を必要としない状態にまで生息状況を回復させることに置き、保護増殖計画を回復計画に変更すべきです。
・政令指定の単位を、種・亜種・品種のみでなく、地域個体群も含めるべきです。
・希少野生動植物種の指定と、その回復のための事業策定を連動させ、政令指定と保全策が即時有効に連動するようにすべきです。
・政令指定種および生息地等保護区の指定、ならびに回復計画の策定を推進するため、科学委員会を設置し、レッドデータブックを種の保存法に反映させ、種の保存法を確実に運用する ための体制の充実を図るべきです。
・国民に政令指定種および生息地保護区の指定申し立て権を認めるとともに、指定に関する手続きを透明化するべきです。
・税関に麻薬探知犬に類する「生物探知犬」を配置するなどして、跡をたたない野生生物の密輸の摘発と水際規制の強化に取り組むべきです。
・税関で没収された野生生物は原則として原産国へ返還することとし、返せない場合は一時保護施設に収容すること、およびいずれとも費用負担を密輸犯人に課すことによって、密輸の 抑止力を高めるべきです。
・ワシントン条約対象種の動物の盗難が相次いでいることなどから、条約規制種は原則としてすべて個体登録制とし、由来を追跡できるようにするべきです。

 なお、審議の過程において、種の保存法の見直しも含めた包括的な野生生物保護のための法体系の見直しについて、複数の議員がその重要性について発言されております。私どもも野生生物保護基本法について、議員立法による制定を提案しております。貴職におかれましてはこうした動きも真摯に受け止め、誠実にご協力くださるようお願いいたします。

 また、来年の通常国会に上程される予定の移入種対策新法においては、実効性の担保のために、特に、野生動物の輸出入、販売、適正飼育に関して、種の保存法ならびに動物愛護法などの関連法を改正し、業者規制、飼育規制の制度の強化を行う必要があります。
 このような個別法の制定、改正をも促し、日本における有効な野生生物保護法制の整備に取り組んでいただきたくお願いいたします。

 以上

野生生物保護法制定をめざす全国ネットワーク
代表世話人:本谷勲(東京農工大名誉教授)
世話人:川道美枝子(京都哺乳類研究会)、草刈秀紀(WWFジャパン)倉澤七生(イルカ& クジラ・アクション・ネットワーク)、小島望(北海道自然保護協会)、古南幸弘(日本野鳥の会)、権田雅之(WWFジャパン)、坂元雅行(野生生物保全論研究会)、斉藤敦子(ウルフ・パルス・イン・ジャパン)、鈴木雅子(北限のジュゴンを見守る会)、竹下信雄(鉛弾規制同盟)、タシナ・ワンブリ(生命の輪)、道家哲平(「翻訳で自然保護をしよう実行委員会」、西原昇吾(東大大学院保全生態学研究室)、野上ふさ子(地球生物会議)、森山まり子(日本熊森協会)、八木典子(日本野鳥の会)、吉田正人(日本自然保護協会)

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別紙
1.国内希少野生動植物種への指定を早急に検討すべき種の例

●哺乳類
 オガサワラオオコウモリ 絶滅危惧IA類 開発・ノネコによる危機
 ヤンバルホオヒゲコオモリ 絶滅危惧IA種。
 クロホオヒゲコウモリ 絶滅危惧IB種。
 カグラコウモリ 絶滅危惧IB類 新石垣空港建設で危機
 ヤエヤマコキクガシラコウモリ 絶滅危惧IB類 新石垣空港建設で危機
 リュウキュウユビナガコウモリ 絶滅危惧IB類 新石垣空港建設で危機
 オキナワトゲネズミ 絶滅危惧IA類 ノネコ・マングースによる危機
 アマミトゲネズミ 絶滅危惧IB類 奄美群島の開発による危機
 ケナガネズミ 絶滅危惧IB類 ノネコ・マングースによる危機
 アマミノクロウサギ 絶滅危惧IB類 マングースによる危機
 ジュゴン 哺乳類学会RDBの絶滅危惧IA類。普天間基地移設で絶滅のおそれあり。
 ヒグマ
 ツキノワグマ
 コククジラ 水産庁/日本哺乳類学会 絶滅危惧種(アジア系個体群)サハリンにおける 石油、天然ガス開発による餌場の喪失。
 スナメリ 哺乳類学会・絶滅危惧種 瀬戸内海の砂利採取、沿岸開発(上関など)と汚染。

●鳥類
 BirdLife International(2001)のアジア版RDBと国内版RDBに記載されており、政令指定されていない種の例
 ミゾゴイ アジア版RDB(EN)、国内版準絶滅危惧。
 クロツラヘラサギ アジア版RDB(EN)、国内版絶滅危惧I類。
 トモエガモ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 ナベヅル アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 マナヅル アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 シマクイナ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 ヘラシギ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧IIA類。
 ミゾゴイ アジア版RDB(EN)、国内版準絶滅危惧。
 ズグロカモメ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 カンムリウミスズメ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 アカコッコ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 ウチヤマセンニュウ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 イイジマムシクイ アジア版RDB(VU)、国内版絶滅危惧II類。
 ノジコ アジア版RDB(VU)、国内版準絶滅危惧。
  (ENは国内版の絶滅危惧IB類、VUは絶滅危惧II類に相当。)

●爬虫類
 ウミガメ類全種

●両生類
 イシカワガエル  絶滅危惧IB類 やんばるの開発の危機
 ハクバサンショウウオ 絶滅危惧IB類 スキー場開発などの危機

●魚類
 ウラウチフエダイ 絶滅危惧IA種。
 アゴヒゲハゼ 絶滅危惧IA種。
 コンジキハゼ 絶滅危惧IA種。
 コマチハゼ 絶滅危惧IA種。

●節足動物
○昆虫類
 ツヅラセメクラチビゴミムシ 絶滅危惧I類。川辺川ダムで絶滅のおそれあり。
 イカリモンハンミョウ 絶滅危惧I類。石川、宮崎、鹿児島、種子島の海岸線に局所的に生息。砂浜の改変により絶滅のおそれあり。
 ヨコハマナガゴミムシ 絶滅危惧I類。横浜市鶴見川河川敷のごく一部に生息。道路建設計画のため絶滅のおそれあり。
 キイロホソゴミムシ 絶滅危惧I類。生息地は汽水域のヨシ原であり、現在は千葉県小櫃川河口にのみ生息。
 マルコガタノゲンゴロウ 絶滅危惧I類。植生の豊富な平地の池沼に局所的に生息するがため池改修事業などで絶滅のおそれあり。
 シャープゲンゴロウモドキ 絶滅危惧I類。太平洋側の生息地は千葉県の2ケ所のみであり、圃場整備事業などにより絶滅のおそれ。日本海側でも大規模開発などにより生息地は激減している。
 ヒョウモンモドキ 絶滅危惧I類。生息地は湿性草地であり、現在は広島県の一部で確認されているのみ。
○クモ類

 イツキメナシナミハグモ 新種・絶滅危惧I類 川辺川ダムで絶滅のおそれあり。

●軟体動物
○陸産貝類(巻貝)
 クビナガムシオイ 高知県のある石灰岩地のみに生息。採掘の影響大。
 ヒラセキセルモドキ 小笠原のムコ島列島のみに生息。ヤギによる植生破壊で絶滅寸前。 天然記念物。
 ハチジョウキセルモドキ 八丈島と八丈小島のみに生息。農薬散布の影響か、近年確認されず。
 タカラノミギセル 尖閣諸島の魚釣島にのみ生息。ヤギによる植生破壊で絶滅が危惧される。
 タイシャクギセル 広島県と岡山県の石灰岩地にのみ生息。
 イシカワギセル 熊本県の石灰岩洞窟にのみ生息。洞窟周辺の環境変化で、すぐに影響が出る。
 カザアナギセル 熊本県の石灰岩洞窟にのみ生息。洞窟周辺の環境変化で、すぐに影響が出る。
 ハナコギセル 関東から中部地方で、知られている生息地は3カ所のみ。
 ヒメカドエンザ 小笠原の母島の属島にのみ残存。天然記念物。
 マルクボエンザ 小笠原の兄島の属島にのみ残存。天然記念物。
 ヒシカタマイマイ 小笠原の母島の属島にのみ生息。天然記念物。
 アナカタマイマイ 小笠原のムコ島列島と父島にのみ生息。天然記念物。
 キノボリカタマイマイ 小笠原の父島と兄島にのみ生息。天然記念物。
 クチジロビロードマイマイ 屋久島にのみ生息。
 モリサキオオベソマイマイ 徳島県の一つの石灰岩地にのみ生息。
 ヘリトリケマイマイ 沖縄島の一つの石灰岩地にのみ残存。
 マヤサンマイマイ 主に近畿地方にのみ生息。
 サドマイマイ 佐渡島にのみ生息。
 エラブマイマイ 沖永良部島にのみ生息。

○淡水産貝類(巻貝)
 キサキコミズシタダミ 長野県の一つの湖のみに生息。
 オンセンゴマツボ 大分県のいくつかの温泉地にのみ生息。環境変化で激減。
 ヨシカワニナ 日本では、与那国島の一つの河川でしか知られていない。

○淡水産貝類(二枚貝)
 オグラヌマガイ 琵琶湖水系にのみ生息。激減。

○海産貝類(巻貝)
 オガサワラスガイ(WWF:オオベソスガイ) 小笠原の父島列島にのみ分布。激減。
 シワミノムシ 奄美以南の藻場に生息。激減。
 カタシイノミミミガイ 沖縄島のマングローブに生息。
 オカミミガイ 三河湾以西のアシ原に生息。
 ニッコウガイsp(確認中) 普天間基地移設で絶滅のおそれ。
 オニツノガイsp(確認中)普天間基地移設で絶滅のおそれ。

○海産貝類(二枚貝)
 サザナミマクラ 本州中部以南の藻場に生息。激減。
 サンゴガキ 沖縄の辺野古周辺でのみ死殻が確認されている。生貝もこれまでに1個体だけ得られている。
 ヒナノズキン 九州西岸の干潟のナマコに寄生。
 ヒノマルズキン 沖縄の干潟のナマコに寄生。
 イチョウシラトリ 九州周辺の泥干潟にのみ残存。
 オオシマダイミョウ 奄美以南の藻場に生息。
 フジナミガイ 九州周辺の泥干潟にのみ残存。
 コヅツガイ 沖縄の羽地内海くらいが知られている生息地。

●維管束植物

 オモゴウテンナンショウ 絶滅危惧IA種
 ナガウミヒルモ(新種) 泡瀬干潟埋立で絶滅のおそれあり。

2.国際希少野生動植物種への指定を早急に検討すべき種の例

●哺乳類
 クジラ類 ワシントン条約で捕鯨対象のヒゲクジラ8種とマッコウクジラは附属書I、他のイルカ、クジラは附属書IIに記載されているが、Iに記載されているものについても留保をしている。

●魚類
 新たに附属書IIに付け加えられた種の留保。
 ウバザメ
 ジンベイザメ
 タツノオトシゴ

以上